事の発端。

2004年。
「愛・地球博」ことEXPO2005の開幕が近付き、
その話題で日本中が盛り上がっていた頃、
私も例外ではなく、一度見に行きたいと思っていた「万博」。

私がRagnarok Onlineで出来た大阪の女の子と会って遊びたいと思っていて、
万博は私個人として見に行きたいものだったので、
それに便乗しようか、と言う話を彼女としていました。
でも、どうせならギルドの皆で会いたいね、と言う話になって、
GWになるとものすごい混雑になるはずだし、それ以後だと暑いよね、
と話し合った結果、4月の土日を使って早めに行く事にして、
各スケジュールを合わせて、日程が決まった。

4月16日。

その日は名古屋あたりで一泊する事にした。
皆で泊まれるように（勿論部屋は別々だけど）同じホテルを取ったり、
早い話が幹事に近い役をしたのが私でした。
勿論、トラブル防止等のため、全員の「本名」をお預かりする事になり、
彼の名前も知る事になりました。

上嶋浩幸（じょうしま・ひろゆき）君。

後に、パロマ湯沸かし器の不正改造による一酸化炭素中毒で死亡した
東京都内に住む男の子で、当時大学生でした。
漢字が少し変わってるな、と、最初に思ったのを覚えています。

彼は仲間内でも人気があり、何か人間関係でのトラブルがあっても、
いつもどちらの言い分も聞いて自分なりの意見を言っていて、
人の痛みのわかる優しい子、と言う印象でした。
そのわりに、私生活では意外と抜けているところもあって、
それが余計に「和み系」「癒し系」のイメージを与えてました。
実際会ってみた上嶋君は、ほんわかとした男の子で
礼儀正しくて素直な良い子、のイメージが一番強かったです。

私達はこの時の集まりを「万博オフ（会）」と呼んでいますが、
その万博オフの前日の、オフ会参加メンバーの連絡用特設掲示板への
上嶋君の書き込み。人名以外は無修正。

本日は１限だけで終わりだったので早々に帰宅。
バスチケットを実家から持って来たはいいが
紛失。
部屋の受戒捜索。（朝4時に起きて紛失に気づく
発見。
部屋を滅茶苦茶のまま学校。
今に至る。バスに乗り遅れなければ６時に着く予定。
結局集合時間とかどうなったんだろう……。
あと……方向音痴なら負けませんよ！＞○○○さん

上記「○○○さん」は、参加者の一人で、現ギルドマスターさんです。

オフ会は何事もなく…とは行かなかったものの、無事終了。
来られなかったメンバーさんから感想を求められたり、と
普通の生活を過ごしていました。

同年、秋。
急に上嶋君がゲーム内に現れなくなりました。
メールをしても返って来ない、と言う話も聞きました。

「学校忙しいのかな」とか皆で言っていたけれど、
内心、不安になっていたメンバーもいて。
でもまさかそんな事があるなんて思っていなくて。

月日は流れて、2006年。7月18日。
11時半のフジテレビ系列のニュースで、あの事故のニュースが流れた。

「……東京都港区のアパートで、上嶋浩幸さんが……」

びくっと、背筋に寒いものが走った。
その言葉の響きに、聞き覚えがあったから。
テレビに背を向けていた私は、慌てて振り返った。

一瞬だけ見えた、「上嶋浩幸」の文字。
名前の漢字が同じ。読みも同じ。歳も同じ。住んでる都道府県も同じ。

頭が真っ白になった。何が起きているのか、把握出来なかった。

その日はニュースばかり見ていた。
あのニュースが流れるのを、ひたすら待っていた。
その間に、大阪の女の子（同じギルドのメンバー）に連絡をして。
「もしかすると、あれは彼かもしれない。一致する点が多い。
だけど私だけでは不安だから、ニュースで確認してくれないか」
と頼んだ。

ニュースの画面を携帯で写真撮影することが出来たので、
彼女に送った。

送るまでも、なかった。

流れる映像が、彼だと言っていた。

わかっていたけれど、送らざるをえなかった。

……信じたくなかった、から。

だけど、どう見ても。ニュースで流れる「上嶋浩幸」と言う名前の人は
私達の知っている彼でしかなくて、
「彼だね…」と言うメールが返ってきた。

パロマ関連のニュースを読み漁った。
徹底的に読んで、いろいろ情報を集めたものの、
何をするでもなかった。その当時は。

だけど、このままでいいんだろうか？

そう思った時に、ふと、一つの思いが生まれた。



「何も出来ないけど、せめて花ぐらい、手向けたいよね」



勿論、事件現場（上嶋君の住んでいたアパート）の位置なんて
土地勘があるわけではないので、細かく特定出来るわけもなく。
東京都内どころか、関東に住んでいるメンバーがいなかった上に、
私自身、東京都内によく行くものの、住んでいるわけではなく。
なかなか探す機会・時間もなく。
麻布周辺に少し詳しい知人に訊いてみたりしたものの、
その周辺をよくわかる、と言うわけではなく…。

今年の11月28日で、上嶋君が亡くなって2年になる。
その日までに、なんとか探してみたいと思う。
せめて、南麻布3丁目にあると言う、その事故現場を。
彼が亡くなったと言うその場所を、見つけ出さなければいけない。
だって私達の仲間内では誰も、
「彼がこの世界にもういない」なんて事実に納得していないのだから。